地域活性学会 The Japan Association of Regional Development and Vitalization

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【第38回】
地域活性学会副会長 御園慎一 

【第38回】リレーエッセイ
「地域活性学会10周年におもう」
地域活性学会副会長 御園慎一

地域活性学会が創設されて10年経ちました。

この学会は、政府の政策担当セクションが、政府の政策名を冠した学会を、政府から働きかけて発足した、という経緯があります。この政府との距離感がこの学会の特色の一つと言えるでしょう。

この地域活性学会の歴史は2003年の10月24日、内閣官房に地域再生推進室が設置されたときに遡る、と私的には思っています。当時の小泉内閣は地域対策の目玉として「地域再生」という政策を推進していました。当時内閣でその施策の統括をしていた私は活性化成功に不可欠な要素は何かということで仲間とともに大変悩みました。さまざまな議論の末、今では当たり前の概念である『地域の活性化は人財にかかっている』ということに気づきました。ではこの人財育成を何処で誰がどのように行うか、これがまた難題でした。そんな時、私が講演にお邪魔した石川県に立地する国立先端科学技術大学院大学がこの人財育成に協力しようと言ってくれました。大学というまさに人財育成にうってつけのところが場を提供してくれるということになったわけです。そこで講座の名前を「地域再生システム論」と命名し、学生だけでなくまちづくりに関わるNPO等地域の人々、地元の自治体の首長さんや職員の皆さん、そして政府の担当者がともに学ぶ講座、単なる座学だけにはせずにフィールドワーク等も取り入れた実践的な人財育成講座を展開することになりました。おっかなびっくりスタートした講座でしたがいろんな人財の結びつきが予想しないような化学変化を起こして大きな成果を生むことになりました。であるならこの「地域活性化システム論」という仕掛けを全国の大学で展開してもらうことが人財育成につながりその結果地域の再生の速度を上げることになると考え多くの大学の関係者にお声をかけ、各地の大学で講座が開設されて成果を生み出すようになりました。

そんな状況が生まれてきたときに、それぞれの大学の講座のテーマ設定や講座の構成などの講座の持つノウハウや人財育成のために絞った知恵を関係者が一堂に会してお互いに検討しあう場を作れば、お互いの良い点を取り入れてさらに講座ひとつひとつがさらに良い講座なるのではないかという議論になりました。そしてこの考えの延長として地域活性化を議論する場としての学会を作ってもらおうということになったのです。その後多くの皆さまのさまざまな議論と苦労がありましたがその過程を経て2008年12月20日の地域活性学会設立総会に至ります。この間、政府が「地域再生」としていた名称を「地域活性化」と変えたために学会創設に向けた動きの途中から学会の名称も「地域再生学会」から「地域活性学会」とすることにしたという事態も生じました。

このように、政府の地域再生施策と大学での地域再生システム論から生まれたこの学会が創設10年を迎えた今これからの展開をもう一度みんなで考える良い機会だと思います。学会として「地域活性化」をどのようにとらえるのか、研究活動と実践活動と教育活動のそれぞれにどのような位置づけをおきどのようなバランスで進めていくのか、地域活性化システム論の展開をより積極的に進めるためにどのようなことに取り組むべきかなど、考え始めるときりがありません。ただ、これは学会員の皆さん一人一人の目指す方向の総和として定められてゆくことだと思っています。そのためには今まで以上にみんなで議論する場を作ってゆくことが必要となるでしょう。

そして、最後に一つ付け加えたいことがあります。我が学会が発足した当時と現在とでは地域活性化に関する大学の取り組みは大きく変わってきています。地域活性化を名乗る学科、学部が多くの大学に作られ人財育成に取り組むようになってきたという事実。このようなときだからこそそれらの大学や学生そして関係者の地域活性学会への加入を募って活性化の輪を広げていくとともに地域活性化のためにお互いの英知と力を結集することが求められていると思います。地域が疲弊し地域の活性化のための人財育成が強く求められているからこそ日本社会の活性化に向けて働きかける組織たる地域活性学会の活動をより充実したものとしていかなければならない、そのための英知の結集がとても大切だと改めて感じています。

※肩書等は掲載当時のものです。
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【第37回】
評議員 林美香子(慶應義塾大学) 

【第37回】リレーエッセイ
「農村で楽しもう」
          評議員 林美香子(慶應義塾大学)

昨年9月、地域活性学会評議員に就任させて頂いた林美香子です。どうぞ宜しくお願いします。

キャスターの仕事をしながら、「農都共生=農村と都市の共生」による地域活性化をテーマに活動しています。農都共生活動による「情報の循環」、「人材の循環」、「経済の循環」が、農村・都市の双方に活力をもたらし、地域の持続可能性につながっていくと考えています。

横浜市にある慶應義塾大学SDM研究科の特任教授として農林中央金庫寄付講座「農都共生ラボ(アグリゼミ)」を担当しています。札幌在住のため、月に一、二度、大学で学生たちとゼミを開催するほか、実際に農村に足を運ぶことがとても重要であると考え、毎年、農村視察を実践しています。
東京、横浜、札幌で開催している農都共生のフォーラムでは、参加者から、「もっと農村に出かけたい」「農村の情報がもっと欲しい」という話を頂くことも多く、このほど、「農村で楽しもう」(安曇出版)を出版しました。農家のみなさんには、農業・農村の多面的機能を活用し、農業経営の柱のひとつとして、農家レストランや直売所などの活動を進めて欲しい、という願いも込めています。
この本では、農村景観づくり、地産地消、6次産業化、地域活動などの好例を、豊富なオールカラー写真とともに紹介。都市の人間は農村に何を求めるのか、また農村はどんなところを訴求したらいいのかを視点に執筆しました。
紹介しているのは、沖縄の宿泊付き体験農場で人気のある「あいあいファーム」、乳製品の加工とレストランで年間30万人が訪れるニセコ町・ミルク工房、地元の小麦などを使用し、十勝ならではのパン作りをめざす帯広の満寿屋、雪を米の冷蔵に活用した雪中米で有名な北海道沼田町など。沼田町では、一昨年、昨年と、農村視察を実施。都会育ちの学生たちが、農業体験を通じて、農家と語らい、農業への理解を深めている姿をレポートしました。

 この本の発刊を記念して、2/15木曜日、午後7時から、慶應日吉キャンパス協生館で、「第6回 農業・農村・地域活性化セミナー〜農村で楽しもう」を開催します。多くの方にご参加頂きたいと願っています。詳しくは、以下参照。
 http://www.sdm.keio.ac.jp/2018/01/15-105755.html

※肩書等は掲載当時のものです。
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【第36回】
山本 尚史
(理事、拓殖大学政経学部教授・経済学科長)
 

【第36回】リレーエッセイ
山本 尚史
(理事、拓殖大学政経学部教授・経済学科長)

「ヒト、モノ、カネ、情報」の動きが世界中で活発になっているために、生活がグローバル化していると感じる機会が多い。そして、世界が相互につながることによって、日本企業は否応もなく新しい社会的価値創造へのグローバル競争に参加している。このような状況で生活せざるを得ないとすれば、「グローバル社会」を正しく理解することが不可欠になってくる。

「自分の立場は、自分の居場所で決まる(Where you stand depends on where you sit.)」という「マイルズの法則」がある。この格言を「自分がこれは妥当だと見なす観点によって、自分の意見が形成される」という風に拡張することもできる。観点が異なれば、その問題についての評価は異なり、それにより問題解決のための提言も異なってくるのだ。グローバルな問題を考えるときには、複数の観点を持ち、どの観点ならば解決策を導き出すことができるのか、を考慮することが重要である。

世界有数の物流企業である「ドイツポストDHL」は、世界の著名な研究者や専門家の参加を得て、2050年には世界がどうなっているかを予測する研究プロジェクトを実施し、その成果を2012年に報告書『Delivering Tomorrow - Logistics 2050, A Scenario Study』(『2050年の世界 -- シナリオ研究・ロジスティクス2050』)として発表した。

この報告書では、2050年の世界がどのようになっているのかについて、5つのシナリオを作成している。その5つのシナリオとは、第1のシナリオ「暴走する経済、切迫する崩壊」、第2のシナリオ「巨大都市における超効率」、第3のシナリオ「多様性に富むライフスタイル」、第4のシナリオ「保護主義による経済麻痺」、そして、第5のシナリオ「グローバルな復元力とローカルの適応」である。

将来の世界がどのようなものになるのか、既に定まった宿命は存在しないはずだ。どのような未来を構築するかは、現在の我々の手に委ねられている。自分たちが望む未来を手にするためには、このように複数の観点を深く理解することがその一助となるだろう。

なお、『2050年の世界 -- ロジスティクス2050』の要旨は、動画でも提供されている。

 www.youtube.com/watch?v=oFR3s3CLl90 (日本語)
 www.youtube.com/watch?v=VE0lPTfsBoI (英語)
で、それぞれ視聴できる。また、英文の報告書は、次のウェブサイトからダウンロード可能である。
 http://www.dhl.com/content/dam/Local_Images/g0/aboutus/SpecialInterest/Logistics2050/szenario_study_logistics_2050.pdf


山本 尚史 (やまもと・たかし)
拓殖大学政経学部教授・経済学科長

2011年4月より拓殖大学政経学部にて地域経済活性化のプログラムである「エコノミックガーデニング」を研究するとともに地方自治体を支援している。ハワイ大学大学院修了(経済学博士)。現在、総務省地域力創造アドバイザー、大阪府ものづくり支援アクションプラン推進委員長、岡崎市市政アドバイザー、山武市エコノミックガーデニング推進協議会アドバイザー、東温市産業振興会議アドバイザー、地域活性学会理事。主著として、『地方経済を救うエコノミックガーデニング―地域主体のビジネス環境整備手法』(新建新聞社)
※肩書等は掲載当時のものです。
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【第35回】
浜田市長・理事 久保田章市 

【第35回】リレーエッセイ
「地域活性学会弟9回研究大会を終えて」
浜田市長・理事 久保田章市

本年9月1〜3日、地域活性学会第9回研究大会が島根県浜田市の島根県立大学で開催され、私は実行委員長を務めさせていただきました。どれ位の参加があるか心配いたしましたが、お陰様で参加者463名(地元市民140名を含む)、登壇者173名と共に過去最高となり、盛会裏に終わることができました。大宮会長(当時)始め理事、事務局、島根県立大学の皆様など、関係の全ての皆様に心より感謝申し上げます。

今回の研究大会の開催は、市長公約の一つでした。私は4年前の2013年10月、法政大学教授から転じ、生まれ故郷の浜田市長に就任いたしました。浜田市は人口減少、過疎化、基幹産業の水産業の低迷など多くの課題を抱えています。様々な活性化策に取り組んでいますが、交流人口増加策の一つが研究大会の開催でした。 

浜田市には全国的に有名な観光地はほとんどありません。どうすれば交流人口が増やせるか。出来れば宿泊もして欲しい。そこで考えたのが、大規模な会議、大会、イベントの誘致でした。市内に大学があることから研究大会もその一つでした。
そこで、地域活性学会に働きかけることにしました。地域活性学会は、私が法政大学教授時代に創設され、私は創設時からの会員です。市長になった現在も、毎年、研究大会に参加しています。知り合いの理事も多く、働きかけやすいと思ったからです。
もう一つ想いがありました。全国の会員の皆さんに「課題先進地・島根県」の取り組みを知ってもらうことです。ここ数年、わが国では人口減少が大きなテーマとなっていますが、島根県は60年前の1955年頃からずっと人口減少が続いています。県内の自治体は長年、人口減少に起因する様々な課題に向き合っており、それを知っていただき、参考にしていただきたいと思ったからです。実際、プログラムの中に2つのシンポジウムを作っていただき、県内の首長による自治体の取り組みと、島根県にUIターンした若者たちの地域課題解決に向けた取組みを紹介させていただきました。

ところで、今回の研究大会、地域経済にも貢献していただきました。開催期間の市内のホテルは満室で、駅前の飲食店も賑わったようです。お土産に「赤天」などもお買い求めいただきました。

浜田市には、美味しい魚や温泉もあり、毎週土曜夜には石見神楽も上演しています。是非、もう一度、浜田市にお越しください。お待ちしております。

※肩書等は掲載当時のものです。
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【第34回】
地域活性学会 理事 吉川智教 ...他4名 

【第34回】リレーエッセイ
「スウエーデンの国際学会でセッションを開催・発表」

地域活性学会 理事 吉川智教
       理事 鵜飼宏成
       理事 今瀬政司
       会員 奥山 睦
       報告:事務局 白石史郎

6月15日〜17日の3日間、スウェーデン南西部のトロルヘッタン市のユニバーシティ・ウェスト(University West)を会場に、第20回ウッデバラ・シンポジウム(Uddevalla Symposium)が開催された。

ウッデバラ・シンポジウムは、シンポジウムと名前がついているものの、年に1回研究大会を開催し、また研究誌を発行しており、年会費を徴収していないだけで、実質的には地域活性分野の国際学会である。近年は地域活性分野の世界大会としても認知されつつあるこの国際学会に、地域活性学会の役員、会員5名が参加し、さらに独立したセッションを設けて発表した。

快晴のさわやかな日差しと澄んだ空気が心地よい北欧の人口4万人の田園都市トロルヘッタンに世界20か国から100名の研究者や実務家が集まった。 節目となる今回の第20回大会は、国際化された地域経済におけるイノベーション、アントレプレナーシップ、産業のダイナミックスなどをテーマに活発な議論が行われた。

これまでも、イギリス、ドイツ、イタリア、デンマーク、アメリカ、日本など世界各国の持ち回りで開催されてきたが、記念大会ということもあり、本部の置かれているスウエーデンでの開催となった。 トロルヘッタン市は産業革命以降、自動車産業や航空機産業で発展し、かつては湖からの豊かな水を利用した水力発電から産業が発達し、蒸気機関車の製造もおこなわれていた。 自動車メーカーのサーブも本社工場があったことでも知られる。サーブは残念ながら2011年に事実上経営破たんし、現在は中国企業の所有で工場も中国に移転。今年中にサーブのブランドも消滅の予定。かつての工場一帯は、レンガ造りの旧工場の建物を生かして、産業支援センターやインキュベーション施設に生まれ変わっている。ユニバーシティ・ウェストは、地域の産業構造の劇的な変化に対応するための役割も期待されているのだ。

大会は、地元トロルヘッタン市のエイカールンド市長からの歓迎挨拶で幕を開けた。基調講演は、3日間にわたり各日の午前中に毎日3〜4名ずつ、計11名が登壇した。

グローバルと地域の関係について様々な視点からの講演があった。多国籍企業と地域経済の再編、国際的な研究開発活動、再生医療、IT、産業クラスターなど多岐にわたった。なかでも、最終日には、英国サセックス大学のストレイ教授が、イングランドとウエールズの起業家支援政策と、その効果について過去90年間にわたってデータ分析した結果、行政の政策の大きな効果は見られなかった、との研究報告を行い、議論を呼んだ。 各日の午後は5〜7会場にわかれて、セッション(分科会)が開催された。セッションごとにテーマが設定され、各セッション5名がテーマに沿った発表をしてディスカッションを行った。セッションによっては、著名な研究者に交じって、大学院生が意欲的なテーマの研究発表に果敢に挑戦している姿が見られた。

日本からは5名が参加し、セッションの一つを担当した。座長を務めた早稲田大学ビジネススクール吉川智教元教授は次のように世界大会を振り返る。 「ウッデバラ・シンポジウムは、特定地域の経済発展をテーマとしており、極めてユニークな国際学会の世界大会です。日本からは昨年のロンドン大会に引き続き、愛知学院大学の鵜飼宏成教授と二人でセッション(分科会)を提案しました。今回提案したテーマは、「イノベーションの地域偏在性と新産業創出」というもの。幸い、大会組織委員会にその意義が認められ、セッション開催の運びとなりました。地域活性学会のニュースレターでも参加をよびかけて、吉川智教(早稲田大学元教授)、鵜飼宏成氏(愛知学院大学教授)、今瀬政司氏(京都経済短期大学准教授)、奥山睦氏(慶応義塾大学大学院博士課程)、白石史郎氏(事業構想大学院大学事務局長)が発表しました。 2日目の13時に始まって全体の総括の時間を含めて17時半まで4時間半の長丁場でした。われわれのテーマは、イノベーションは、世界の特定の地域でしかおきていないという現象に注目したものです。もしも、イノベーションが起きている地域の条件が解明されれば、特定の地域の活性化の条件を明確にすることができるはずです」

「発表は全て英語ですから、皆さん大変な思いをしての発表です。発表後の、コーヒーブレイクや会食の時に海外からの参加者の質問、コメント、議論に巻き込まれ、研究者として、自分の研究の普遍性を実感した人が多かったのではないでしょうか。海外で英語での研究発表は、スポーツで言えばAwayでの試合と同じです。一度、自分の研究が海外の学者から注目されるということに味をしめると、発表前の緊張感と発表後の開放感は癖になります。国際学会というとハードルが高いように思われるかもしれませんが、事前に資料も十分時間をかけて準備できますし、発表後にフルペーパーにまとめれば、立派な論文集に掲載されるチャンスもあります。ぜひチャレンジしてみてください」

共同で座長を務めた愛知学院大学の鵜飼宏成教授は、 「連日多くの方と交流する機会に恵まれました。フィンランド、スウェーデン、ドイツなどいろいろな国の方と交流しました。このような方々が普通にいて、共通する問題意識で話し合えるこのシンポジウムがどれほど貴重なものか、改めて喜びを噛み締めています」と振り返る。

今回の日本から参加した発表者のセッションは、地域活性学会第9回研究大会(島根県立大学・浜田キャンパス)のなかでも日本語で報告する予定。来年の大会の開催地はヘルシンキの見込み。今回の参加したメンバーを中心に、地域活性学会の会員が国際学会での発表をサポートできるような研究部会を立ち上げたいと企画している。今後ともご支援、ご協力を賜れば幸いである。

ウッデバラシンポジウム
 https://symposium.hv.se/

※肩書等は掲載当時のものです。
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【第33回】
地域活性学会副会長・学会誌編集委員長 中嶋聞多 

【第33回】リレーエッセイ
「学会誌のこれからのあり方」
地域活性学会副会長・学会誌編集委員長 中嶋聞多

多くの学会がそうであるように、本学会の理事にもそれぞれ一定の役割が割り振られており、私はここ数年、学会誌の編集委員長をつとめてきた。
おかげさまで会員のみなさまの関心は高く、論文投稿数は年々増え続け、それにともなって査読者や編集委員の作業量もたいへんなものになってきている。
ここであらためてご協力くださっているみなさまにお礼を申し上げたい。

ご存知のように、『地域活性研究』では、2名の査読者によるダブルブラインド型のピア・レビュー・システムを採用している。採択に際して、両者の意見が一致した場合はよいのだが、もし意見が別れた場合は編集委員会の判断が必要となる。
限られた時間の会議で、一定の結論をださねばならないので、たいへん濃密な議論が交わされる。出席がかなわない委員には、スカイプを使って、国内外からご参加いただくこともある。

9月の研究大会が終わるとまた論文募集が始まるので、ちょうど今は端境(はざかい)期にあたる。そこでふたたびルーティン・ワークが始まる前のこの時期に、臨時の編集委員会を開催し、これまでの委員会を通じて各委員が感じてきた課題を整理し、改善策を考えようということになった。

さきに結論から申し上げると、登ろうととりついた山の高さにみな圧倒されたというところか。
議論は、地域活性における実践と研究の関係や、研究論文、研究ノート、事例研究報告、事例紹介という4つの論文カテゴリーの是非、はては学会誌そのもののあり方など多方面におよび、とうてい数時間の枠にはおさまらないものとなった。
それでもまだ議論は緒に就いたばかりで、結局、次回の開催を約束して閉会となった。

終わったあと、頭の疲れはピークに達したが、久しぶりに学会らしい充実感もあった。学会とは本来、自由な議論の場であり、運営側の私たちも、たまにはこうした議論をする必要があると思った。
だが同時に、それらをどう評価ルールやシステムの改善につなげるか検討し、理事会等での審議のための素案にまとめるという現実的な作業もあれこれ頭に浮かんだ。

そうであっても、ここで垣間見えた問題や課題は、学会運営のタイムスケジュールとは別に、会員のみなさまとぜひ一緒になって学び、考え、つくりあげていくべきテーマだと痛感している。
そのためぜひ、シンポジウムやセミナー、チャートリアル等の機会をつくる提案したいと考えている。

思えば私たちはこれまで、学会を通して、地域活性という新しい学際領域の創造にたずさわり、だだひたすら走りに走ってここまでやってきた。今は地方創生の追い風もあって会員数も増え、順風満帆のようにもみえる。
しかしながらこうした日常の気づきが共有されてこそ、持続可能な学会システムが構築されていくのではなかろうか。

※肩書等は掲載当時のものです。
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【第32回】
御園 愼一郎
(地域活性学会副会長・スポーツ振興部会代表幹事)
 

【第32回】リレーエッセイ
「ホストタウンをまちづくりの契機に―オリパラシンポジウムのご報告―」
御園 愼一郎
(地域活性学会副会長・スポーツ振興部会代表幹事)

「ホストタウンによる地域活性化 地域を元気にするヒントがきっと見つかる」と題したシンポジウムを5月17日13時から拓殖大学文京キャンパスで行いました。

スポーツ振興部会としては初の大規模シンポジウムで不安もありましたが会場一杯となる450名を上回る皆さんの参加を得て盛況のうちに終了する事ができました。 シンポジウムは主催者代表の大宮会長のご挨拶でスタート。 続いて、すばらしい会場を提供していただい拓殖大学の川名学長のご挨拶、さらに鈴木大地スポーツ庁長官の特別講演と続きました。 このシンポジウム開催のきっかけは政府の提唱したホストタウン構想でした。 これはオリンピックパラリンピック東京大会に参加する世界の人々と日本各地の市町村がホストとして交流することで我が国あげて大会を盛り上げていこうというものです。

既に140近い団体が政府に登録されていますが具体的にどのような事業を実施していくのかまだまだ手探りだとの声が聞こえてきました。 でも、後世の人達に2020があったからこそというレガシーを残せないものか?単に大会の受け入れだけにとどまるのでなく、2020以降も含めた地域活性化の仕組みをホストタウン活動を通じて創ってゆけないか? 地域活性学会としてその事を訴えてゆく活動のキックオフとしてこのシンポジウムを計画しました。 活動の切り口は多様なものになるでしょう。パラリンピックを契機として障がいをもつ人とそうでない人との共生社会の構築を目指す活動、ロンドンオリパラの文化プログラムのように地域の伝統文化を磨き上げて世界に発信する活動、観光基盤をより充実させてインバウンド増加を狙う活動、地域の食文化をより洗練されたものにしていく活動等様々なことが想定されます。

そんなことを前提としてシンポジウム後半はまちづくり、文化、観光、共生社会という4つのテーマの分科会で参加者の皆さんとともに考える場を持ちました。そしてそれぞれがしっかりとした手応えを得る事ができました。とはいえ、まだまだ語り合い追求していかなければ行けない事は山積です。 それらのことは今回頂戴したアンケートの結果も踏まえて今後のシンポジウムのテーマにしていくことにしています。 さらに,この日の第2部として参加者の皆さんとの情報と名刺交換のための交流会も実施しました。 この場には,大宮会長の高等学校の先輩にあたる遠藤利明前オリンピックパラリンピック担当大臣も駆けつけていただきご挨拶を頂戴する事ができました。缶ビール片手の会合ですが参加する皆さんの地元の銘酒、特産品等の持ち込みもOKにしたことでお国自慢かたがたのネットワーク構築の場となり大いに盛り上がった事もご報告しておきます。 活動に携わるメンバーがまず楽しむところからまちづくりは始まります。地域活性学会のこの理念も参加者の皆さんに理解してもらえたのではないかと思っています。 今後の展開がどのようなものになってゆくのか私自身楽しみが大きく膨らんできています。

最後に、このシンポジウムの開催にあたり会場の提供をはじめ多大なご支援をいただいた拓殖大学の皆さま、特別講演をいただいた鈴木大地スポーツ庁長官、基調講演およびセミナー講師の皆様、また、ご後援をいただいた内閣府をはじめとしたすべての皆さま、そして第二部に参加いただいた遠藤前大臣に心からの御礼を申し上げるとともに今後の引き続きのご支援をお願いする次第です。くわえて、学会員の皆さまにおかれては第二回目以降の会合にもふるってご参加くださいとお願いしてシンポジウムのご報告に替えさせていただきます。

※肩書等は掲載当時のものです。
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【第31回】
地域活性学会評議員 佐藤公俊
(高崎経済大学地域政策学部教授)
 

【第31回】リレーエッセイ
「地域活性化」を教えるということ
地域活性学会評議員 佐藤公俊
(高崎経済大学地域政策学部教授)

私は2006年度から地域政策学部というところで「地域政策論」という講義 を担当しており、今年度は12回目ということになる。受講者の大半は1年生 である。政治学や経済学のように「標準的なテキスト」があるわけではなく、 講義をする私も受講する学生も大変である。

そもそも大学における「○○論」という名称の科目は、社会科学においては 常識的に専門的・応用的科目である。そのような科目は、「○○学」という 基礎科目を受講し方法論(ディシプリン)や制度論を学んだ後で3、4年生に 受講して欲しいのだが、固有の方法論や制度論を持つ「地域政策学」が存在 しない以上そうはいかない。そのため、われわれはその代わりに「基幹教養 科目」(公共哲学・法学・政治学・行政学・経済学・経営学・社会学・地理 学・歴史学)という「○○学」群を設け、学生には1年次に複数を受講する ように勧めている。しかしながら学生は「地域政策学部に入ったのだから、 1年次には地域政策論を取ろう」と自然に考えるし、その学生が4年生となり 就活も終わり、突如勉学意欲に燃えて例えば「公共哲学と政治学をとってみよう」 となることも多い。逆にして欲しいのだが、なかなか思い通りにはいかないのである。

そのような状況の中で、「地域政策論」では「地域社会の問題を解決するための 「諸」学問の固有の原理(方法論や制度論)」を教えるべきなのか、 「地域社会の問題解決の実態(現象)」を教えるべきなのか。考え続けて 辿り着いた答えは、理論や制度による分析ができなくては全くお話にならないし、 地域社会の実態、人々の営みや心情が理解できないとこれもまたお話にならない、 という当たり前のことである。しかしながら、一般的な傾向として、 前者を重視する人は、後者について歯牙にもかけない。その一方で、後者に関る人は 前者を肯定したがらない。学生には、「双方の思想と技術を理解できないと、 世の中にでても大して役に立たないよ」と言うことにしている。 過疎の地域に他地域から数世帯でも移住してくる人がいたとした場合、 それを理論的制度的に分析する頭脳を持ちつつ、そのことの重大性を皮膚感覚 で理解できる視野の広さや経験が、これからの日本の地域活性化には どうしても必要なのである。

佐藤公俊(さとう・きみとし)
高崎経済大学地域政策学部教授、博士(法学)。
地域活性学会評議員、日本地域政策学会理事(広報副委員長)。
※肩書等は掲載当時のものです。
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【第30回】
地域活性学会理事 松本敦則
(法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科准教授)
 

【第30回】リレーエッセイ
「商店街調査から見るコーディネーターの必要性」
地域活性学会理事 松本敦則
(法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科准教授)

3年ほど前から、外部資金がついたのをきっかけにゼミ生や修了生らと 一緒に商店街の調査を行っている。私が所属しているのはビジネス系の 専門職大学院であり、その中には中小企業診断士を養成するプログラム もある。よって多くの修了生が中小企業診断士として独立し、商店街の 個店の経営支援や補助金等の申請書作成などを行っていく。訪問場所 は東京都内の商店街がメインだが、これまで新潟、岐阜、金沢の商店街 にも訪問している。

最近は、新雅史(2012)『商店街はなぜ滅びるのか』光文社新書や、 満菌勇(2015)『商店街はいま必要なのか』講談社現代新書、また東京都 の中小企業診断士の研究グループが執筆した商店街研究会編(2013) 『TOKYOキラリと光る商店街』など、改めて商店街の変遷、存在意義や魅力 などを見直す動きがでてきている。

調査においては、各商店街の組合の方々はもちろんのこと、各自治体の 産業政策課や地元の商工会議所などにも訪問するようにしている。それは、 それぞれの立ち位置によって商店街に対する見方や考え方が違うからである。

例えば、自治体側は東京都内、特に下町地域は外国人向けインバウントの対策 をしてほしいと考えているが、商店街側は外国語を話せない、手間がかかる、 地元のお客様を大事にしたい、などで乗り気でないとことも多い。少し視点が 変わるが、教育の現場でも同じようなことが起きる。数年前に実家が商店街の 中で八百屋をしているという学生がいた。彼は商店街の活性化を行い、地元の 商店街に観光客を呼びたい、と授業で発表をした。その時ある教授は、 「良いのではないか」とコメントをしたが、別の教授は「商店街の活性化は どうでも良いから、まずきみの家の八百屋の経営を何とかしなさい」と発言し、 学生が困惑するということがあった。

両事例に共通していることは、「向いている方向」が違うということである。 つまり、立ち位置や視点が違うところから発生しているのである。では、 どのようにすれば、「向いている方向」を同じにすることができるのか。 やはり、お互いの立ち位置を認識し合い、議論を深めることであろう。 そのためには、議論を深め、同じ方向に向けていく場やコーディネーターの 必要がでてくる。

ゼミ生や修了生には、単なる中小企業診断士ではなく、自治体側と商店街組合側 をコーディネートできる様々な視点を持った人材になってほしいと願っている。 そのために、これからも学生や修了生と一緒に商店街調査を進めていきたい。

松本敦則
法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 准教授
法政大学経済学部卒業後、椛謌鼕ゥ業銀行、法政大学大学院、イタリア・ボローニ ャ大学留学、在ミラノ日本総領事館専門調査員、静岡県立大学経営情報学部助手 を経て現職。
※肩書等は掲載当時のものです。
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【第29回】
地域活性学会理事 木村 乃
(ビズデザイン株式会社代表取締役/明治大学商学部特任准教授)
 

【第29回】リレーエッセイ
「ブランディングとかプロモーションとか」
地域活性学会理事 木村 乃
(ビズデザイン株式会社代表取締役/明治大学商学部特任准教授)

財布なんか持たずに手ぶらでいいからゼッタイ遊びにきてくれよな。 連れていきたい場所も、ごちそうしたい食事も、紹介したい人もたくさんいるから期待してもらっていいよ。泊まるところだって気にすることはないよ。うちに泊まってくれればいいんだから。どうしても宿がいいって言うんならお勧めのホテルも旅館もあるよ。

わがまちのことをそんなふうに言える人がたくさん住んでいるまちは素晴らしいまちだと思います。そんなまちであれば、たとえ過疎であっても幸せな日常がそこにはあるはずです。頑張ってプロモーションなんかしなくても、「行ってみたい」、「住んでみたい」というよその人がおのずから増えるのではないでしょうか。

結果的に過疎化、高齢化のスピードも緩くなるでしょう。

「地域ブランディングをテーマに職員研修をお願いできますか」
「うまいプロモーションとはどんなものか教えてもらえませんか」

ここ数年そんなご依頼を多くの自治体からいただきます。 私は、よその人にウケることを第一に考えるのではなく、地元の人が楽しめること、誇りに思えること、幸せを感じられることを第一に考えていくことこそが大切なのだということを申し上げます。その考え方に共感していただければご依頼をお引き受けしています。

今年(2017年)の2〜3月、私は長野県観光部 信州ブランド推進室主催の「私たちの暮らしの中にある何気ないうれしい、たのしい、ありがとう」を見える化するワークショップにファシリテーターとして参加しました。@よその人にぜひ紹介したい地元の人は? Aよその人を連れていきたい場所・スポットは? B地元の人が楽しみにしている恒例行事・伝統行事は? Cよその人に食べてもらいたい食べ物・お店は? D〇〇地域といえば・・・? という5つのテーマごとに身近な情報を出し合うワークショップでした。地域の日常にある足元の価値を拾い集めようとする素晴らしい取組だと思います。@〜Dのテーマに即してモノ・コト・バショ・ヒト等の情報(ネタ)を出し合い、教え合いっこしているときの参加者は一様に幸せそうな顔をしています。教えたくて仕方ない、知ってほしくて仕方ないという前のめりの思いが表情に表れています。 このワークショップを統括している信州総合ブランディングアドバイザーの船木成記さんに、「そのまちを好きなひとに出会うと、そのまちを好きになる」という言葉を教わりました。 ワークショップに参加された皆さんのような幸せな表情と語り口でふるさとの紹介をされたら、誰だってそのまちを訪れたくなると思います。それこそが、この時代に必要な地域のブランディングであり、プロモーションなのだと私は確信しています。

木村 乃 (きむら だい)
1965年、福岡市生まれ。京都大学法学部を卒業後、野村総合研究所等を経て、「地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律」に基づき平成15年に38歳で神奈川県三浦市の部長職に就任、政策経営・地域再生の指揮を執る。5年間の任期満了後、平成20年より企業・地域経営に関するリサーチ・コンサル&実行支援を手掛けるビズデザイン株式会社を設立、現在に至る。平成22年より明治大学商学部特任准教授に着任し地域活性化システム論等を担当、現在に至る。
※肩書等は掲載当時のものです。
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【第28回】
地域活性学会理事 久保田章市
(島根県浜田市長・第9回研究大会実行委員長)
 

【第28回】リレーエッセイ
「地方創生で雇用を担う地域中小企業を支援」
地域活性学会理事 久保田章市
(島根県浜田市長・第9回研究大会実行委員長)

浜田市は、島根県西部に位置する人口約5万6千人の小都市です。市の人口 は、1955年の約9万1千人をピークに減少し続け、ここ数年は毎年8百人前 後減少しています。本市の最大の問題は人口減少であると考え、人口減少 対策を柱とする地方創生に取り組んでいます。

人口減少対策には、「自然減対策」と「社会減対策」があります。前者で は、出生数を増やすため子育て支援などに取り組んでいますが、後者では、 先ずは「雇用の場」の確保が必要です。本市には、一度に多くの雇用を期 待できる大企業はなく、企業誘致にも取り組んでいますが、地理的な問題 もあり簡単ではありません。雇用は、結局、地域中小企業に担ってもらう しかありません。

地域中小企業に雇用を増やしてもらうためには、自治体としてどんな支援 ができるでしょうか。私は、地域中小企業には「地域内需型」と「地域外 需型」の2つがあると考えています。地域内需型企業とは、「主として地 域内の個人・法人を顧客とする企業」で、建設、医療・福祉、卸・小売、 サービスなどの業種です。他方の地域外需型企業は、「主として地域外の 個人・法人を顧客とする企業」で、水産、農林、加工・製造などの業種で すが、本市においては鮮魚卸なども該当します。

今後も人口減少が続くと考えれば、雇用の増加は、高齢化によりニーズの ある医療・福祉などを除けば、地域内需型企業にはあまり期待できません。 期待できるとすれば、市外・県外に販路拡大ができる地域外需型企業であ り、本市の場合、地元産の農水産品などの生産、加工、販売を行う「地産 品事業者」です。 

そこで、最優先施策の一つとして地産品事業者支援に取り組んでいます。 市役所内に、販路開拓を行う専門部署を設置し、隣接の広島県には広島市 場開拓室を設置しました。また、ふるさと寄附(納税)にも力を入れていま す。ふるさと寄附では、2015年度、全国から20億円を超える寄附を頂戴し ました。その約半分は返礼品の仕入れ代金に充てており、これは市内の地 産品事業者の売上げとなっています。

地域中小企業支援で、今後、力を入れたいと思っているのは、経営後継者 の育成です。筆者は大学教授時代、経営後継者育成の研究をしていました。 地方経済は、今後も厳しい環境が予想され、経営後継者がしっかりとした 経営を行い、事業を継続・発展させてもらわなければ地域経済は衰退しま す。経営後継者の育成は、地方の将来にとっても重要です。そこで、本市 にある島根県立大学、地元経済団体、地元金融機関などとも連携し、経営 後継者の育成に取り組むことを考えています。

久保田章市(くぼた・しょういち)
1951年、島根県浜田市生まれ
都市銀行勤務、法政大学大学院教授を経て、2013年10月、浜田市長就任
島根県立大学非常勤講師、地域活性学会理事
※肩書等は掲載当時のものです。
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【第27回】
地域活性学会監事 石川 秀樹
(SBI大学院大学経営管理研究科 教授)
 

【第27回】リレーエッセイ
地域活性学会監事 石川 秀樹
(SBI大学院大学経営管理研究科 教授)

私はSBI大学院大学 http://www.sbi-u.ac.jp/ という企業家育成を目的 とした経営専門職大学院に所属しています。そこで、本稿では、地域活性 化と大学について考えてみたいと思います。  

SBI大学院大学はe-learningでMBAプログラムを提供する大学院ですので、 学生は全世界に居住しています。たとえば、私のゼミ生の居住地は、モス クワ、バンコク、熊本、岡山、京都、埼玉です。そのようなこともあり、 多くの修了生が全国各地で地域活性化に取り組んでいます。その中でも、 松山市で道後温泉の活性化や今治タオル専門店を展開する大藪崇氏 (2010年9月修了)は「月刊事業構想」やテレビ番組「カンブリア宮殿」 でも取り上げられるなど注目を集めています。その大藪氏が著書「怒ら ない経営」の中で、大学院について次のように述べています。

“良い経営をしようと思ったら、学問やテクニカルな面以上に、良い人間 であることが大切と知った。ここでの経験は、その後の人生につながって いると思う。そして、「手探りにはなるが、これまで通り、たんたんと進 んでいこう」と腹をくくった。”

また、アメリカの多くの研究でも、企業家に重要な要素は、企業家的レジ リエンス(耐性、打たれ強さ)、企業家的自己効力感(自分は企業家とし ての能力があるという確信)、パッション(情熱)などが重要であるとさ れています。

SBI大学院では、論語に代表される中国古典や渋沢栄一に代表される近代 の経営思想・哲学などの学びを通じて、学生はリーダーが置かれる厳しい 状況を自分自身と重ね合わせて考え疑似体験することによってリーダーと しての生き方を自分なりに理解し、実践の中でその理解を深め身につけて いくことが期待されています。これは、社会人の学びにおいては、自己の 経験への振り返り・内省が学びのサイクルにおいて重要なプロセスである とのDavid Kolbの経験学習論と同じ考えです。

しかし、ここで難しいのが、いかに実践の中で理解を深めるのか、という 点です。もちろん、カリキュラムの中で、事業計画演習や組織変革演習の ようなプロジェクトベースの科目も用意して工夫はしていますが、いまだ 試行錯誤という状況です。つまり、大学において、地域を活性化させる企 業家を育てる際に課題となるのは、何を教えるかよりも、教えてもらった ことをどう実践し理解を深化させるか、の方ではないかと考えます。同じ 問題意識をお持ちの方がいらっしゃいましたら、学会などで意見交換させ ていただければ幸いです。

石川 秀樹(いしかわ・ひでき)
SBI大学院大学経営管理研究科 教授
上智大学法学部国際関係学科卒業、筑波大学ビジネス科学研究科経営シス テム科学専攻修了(経営学修士)。新日本製鐵株式会社資金部、鋼管輸出 部などを経て、SBI大学院大学へ着任。日本経営品質賞、三重県経営品質賞、 鹿児島経営品質賞、栃木県経営品質賞などの審査員を歴任。
地域活性学会監事。
※肩書等は掲載当時のものです。
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【第26回】
地域活性学会理事 吉川智教
(早稲田大学大学院、ビジネススクール教授)
 

【第26回】リレーエッセイ
「ヨーロッパのUddevalla Symposiumについて
 〜awayでの研究発表へのお誘い〜」
地域活性学会理事 吉川智教
(早稲田大学大学院、ビジネススクール教授)

地域とイノベーションに関して研究して20年になります。イノベーショ ンという概念が、経済学や経営学で重要なキーワードの一つとなって20 年近くたつにも関わらず、全ての企業でイノベーションが起っている訳で はないし、全ての地域でイノベーションが起きている訳ではありません。

イノベーションには地域偏在性があります。イノベーションは全世界で起 きている訳では有りません。特定の地域に偏在してイノベーションが起き るのです。例えば、米国のシリコンバレーでは、20世紀には半導体に関 するイノベーションの60%が起きていると言われています。

この現象をどのように理解するのか。なぜ、特定地域にイノベーションが 偏在しているのか、正に、21世紀の社会科学の大きな研究テーマの一つ です。このテーマに関する研究が明確にならない限り、イノベーション研 究の基礎はないと私は思っています。

Uddevalla Symposiumはヨーロッパを中心として、地域のイノベーション や、地域活性化に関する学会です。この学会の大きな特徴は、米国の学会 とは違い、ヨーロッパの学会であるために、それぞれの、言語、文化、歴 史、地理、の違いが大前提にあり、その前提の上にたって、イノベーショ ンや経済の議論がなされます。この点、日本の特定の地域の議論も違和感 なく議論が可能です。

私も、2014年、2016年と研究発表と、セッションの座長を勤めま した。本学会からも、鵜飼宏成(愛知学院大学)さん、岸田伸幸(事業創造 大学院大学)、丹生晃隆(宮崎大学)さん、白石史郎(事業構想大学院大学) さん等、日本から6人が2016年には発表しています。

海外での研究発表そのものに意義があるとは思いません。しかし、違う 条件下で、地域活性化、地域イノベーションの議論は、日本の研究者に とっても刺激的です。ヨーロッパの研究者との議論は、自分が扱ってい る地域の相対化が可能になり、共通の理解が可能になります。

2017年には、スエーデンで6月に開催されます。鵜飼さんと共同で、 Geographical Concentration of Innovation and Creation of New Industries というセッションの座長をします。日本の研究者も5?6人 参加が予定されています。

本年の発表受付は終了していますが、機会があれば是非、away での 研究発表を試みませんか? 詳細はwww.symposium.hv.se をご参照ください。
ご質問等、t.yoshikawa@waseda.jp まで頂ければ幸いです。

吉川 智教(よしかわ ともみち)
東京で1947年に生まれ。早稲田大学理工学部卒業、 一橋大学大学院修士、博士修了。横浜市立大学助教授、教授を経て 早稲田大学大学院、ビネススクール教授。
その間、世界銀行、スタンフォード大学、カナダUBC、 英国サセックス大学、で客員研究員を経験。カナダに在外研究中には、 横浜市のカナダの姉妹都市のバンクーバー市について神奈川新聞に 『バンクーバー便り』を2年間週一回寄稿。
t.yoshikawa@waseda.jp
※肩書等は掲載当時のものです。
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【第25回】
地域活性学会理事 保井 俊之
(慶應義塾大学特別招聘教授)
 

【第25回】リレーエッセイ
地域活性化における「じぶんごと化」の大切さとダイアローグの効用
地域活性学会理事 保井 俊之
(慶應義塾大学特別招聘教授)

この4年間、週末に地域を手弁当で地域イノベーションのためのワークショ ップをファシリテーションしてきた。参加いたただいた方は四千人を超え た。その経験から感じることが二つある。「じぶんごと化」の大切さとダ イアローグの効用である。

地域活性化の方法論は数多くある。筆者は地域活性化の中核的価値を地域 においてみなで起こすイノベーションととらえ、イノベーションを社会に 起こす方法論であるデザイン思考とシステム思考を教え、実践するワーク ショップを実践してきた。しかし、地域を前向きに変えたいと、ワークシ ョップに同じように参加いただいても、地域イノベーションに向けて「火 がつくひと」と「火がつかぬひと」がいるのである。筆者には長らくそれ が解けぬ謎であった。

最近、その謎がやっととけたような気がする。地域イノベーションに向け て「火がつくひと」は、どこかでこれからまちや村を変えるために、自分 でやりたいプロジェクトが可視化でき、自らの人生でそのプロジェクトの 実行に「腑に落ちて」いるのである。地域イノベーションという抽象的な 概念や、イノベーションのための方法論を勉強したという客観的な知識を 超えて、自分の心の中を見つめ、内省と観照の中でこれから自分が地域で やりたいことが見えてくる。地域おこしが「他人ごと」から「じぶんごと」 になったとき、そのひとは行動に移ることができるのだろう。

筆者は昨年7月から居を米国の首都ワシントンに移している。社会システム、 コミュニティデザイン、協創、マインドフルネス、幸福学などをキーワード に研究を続けている。縁あって、ジョージタウン大学ビジネススクール及 びジョン・メイン瞑想と多宗教センター主催のワークショップに参加した 際、知には二つの類型があり、それはともに科学であると説く講師がおり、 なるほどと膝を打った。その二つとは、「客観的な知」(objective knowing) と「静修的な知」(contemplative knowing)である。後者は無意識からの知 と訳してもよいだろう。

これまで実証主義の厳格な枠組みでは、前者の「客観的な知」のみを科学 ととらえてきた。しかし、これからは後者の「静修的な知」こそが、「じ ぶんごと」を自らの心との対話で磨き、地域でひとびとを変革に向けて力 づけるのに大事な要素となるだろう。「静修的な知」の中心的ツールが ダイアローグ(対話)である。ダイアローグの定義は近年大きく変わってき ており、単に他人と意見を交換するのではなく、他者と車座などになりな がら、言葉のやりとりをしつつ、自分と向き合い、自分の無意識の中に眠 っている知恵にアクセスし、直観的な気づきを得ることとされている。

ワシントンをはじめ、米国の大きな都市では、マインドフルネスやエンパ ワーメントという言葉を使いつつ、ダイアローグに注目するひとたちが増 えている。コミュニティや組織を前向きに変えるためのツールとして注目 されている。

日本でも近年、「じぶんごと化」とダイアローグを地域活性化の中心概念 に据えて活動する有意の団体の活動が目立ち始めている。実は、「じぶん ごと化」とダイアローグは日本の伝統文化に深く根差した価値観でもある。 地域活性化の方法論も、日本固有の文脈を超え、グローバルに語られる時 代が来たのだと感慨を深めている。

保井 俊之(やすい・としゆき)
慶應義塾大学
大学院システムデザイン・マネジメント研究科
特別招聘教授 
※肩書等は掲載当時のものです。
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【第24回】
地域活性学会理事 松本茂樹
(関西国際大学人間科学部経営学科教授)
 

【第24回】リレーエッセイ
兵庫県三木市のインバウンドゴルフツーリズムの可能性について
地域活性学会理事 松本茂樹
(関西国際大学人間科学部経営学科教授)

日本には,2,331のゴルフ場があり,兵庫県は北海道の169に次いで第2位の 159である。その中で,関西国際大学の本部のある三木市は25のゴルフ場を 有し,「兵庫県観光客動態調査報告書」によると年間113万人が市内のゴル フ場を訪れる。わが国ではゴルフ人口は減少傾向にあり,将来に大きな危 惧がある。日本生産性本部の余暇創研の「レジャー白書2015」によると, 2014年の全国ゴルフ参加人口は720万人となり,これまでで最小となってい る。

一方で世界的に見ると,ゴルフコース数が増え,ゴルフツーリズムの市場が 拡大している状況にある。「国際ゴルフツアーオペレーター協会」(IAGTO) の会員数は,年々増加しており 2016 年 5 月時点で 95 ヶ国 2,428 会員 に達している。その中核会員であるゴルフツアーオペレーターは,世界の ゴルフパッケージツアーの 87% 程度を取り扱っており,2015 年の売上総 額は約 2,700 億円,2016年は3,500億円に達し増加傾向となっている。

IAGTOは,ゴルフツーリズム業界で優れたゴルフリゾートおよびディスティ ネーションを年に一度表彰している。アジア・オーストラリア地区のゴル フ・デスティネーション・オブ・ザ・イヤーは,2012年タイ・パタヤ,2013 年ベトナム・国全体,2014年タイ・ホワヒンである。野村総合研究所の 北村倫夫氏の「日本のインバウンド・ゴルフツーリズムを成功に導く戦略」 では,「ゴルフデスティネーション・オブ・ザ・イヤー」を獲得する条件と して,以下の4点を挙げている。(1)リゾートとしてのファンダメンタルズ が整っている (2)ゴルフ場が魅力を高める独自のゴルフイベントを企画開催 している (3)地域に開かれたデスティネーションマネジメント団体が設立さ れている (4)効果的な広報プロモーションや品質管理活動が行われている。

三木市は,(1)(2)の条件を満たしているが, (3)(4)については該当しない。 三木市では,2006年8月に「三木市ゴルフ協会」が設立され,2016年に初めて 4月〜9月の6ヶ月間,25のゴルフ場が連携してスタンプラリーを行った。こ れは,市内のすべてのゴルフ場が一緒になって取り組んだイベントであり 大きな前進であるが,北海道のように海外に目を向けたプロモーションは まだ展開できていない状況である。三木市においても,先進地のように, デスティネーションマネジメント団体が効果的なプロモーション活動を行い, インバウンドゴルフツーリズムを推進してほしいと強く願う。

※肩書等は掲載当時のものです。
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【第23回】
関西大学政策創造学部教授 橋本行史
(地域活性学会理事・関西エリア支部長)
 

【第23回】リレーエッセイ
「六甲山と地域活性化」
関西大学政策創造学部教授 橋本行史
(地域活性学会理事・関西エリア支部長)

 神戸の屋根ともいうべき六甲連山の西部に位置する高取山の山上には、誰が立てたのかわからないが、「Go for a walk in the Mountains」の看板がある。高山であろうと低山であろうと山に入って散策を楽しむと日頃のストレスから心が解放され、新たな息吹が吹き込まれる。六甲山には早くから山を楽しむ文化が育っている。

 地域活性化の一類型として、やや地味なイメージのある近場の低山登山をベースにして、余暇、健康、観光を一体となって推進する取り組みがあげられる。

 イングランド東部をローカル列車で移動すると、休日にサンドイッチを入れたバスケットを手に持った数人のグループが地方の駅で乗り込み、やがて山岳部に入って風光明媚な景色が見え始めると列車を次々に下車していく情景に遭遇する。登山を楽しむことが日常生活の一コマになっている英国の登山文化の成熟度を示している。

 都市化・宅地化が進んだ日本において、大都市近郊においてローカル列車から降りてすぐに登山道に入ることは望めないが、政令指定都市の神戸市は例外である。東西に広がる市街地の背後に六甲山が横たわるために、海沿いを走るJRや阪神電車と異なって、山側の山陽電鉄、神戸電鉄、市営地下鉄、阪急電鉄は六甲山の南側を囲むように走っている。そのため、電車を下車してすぐに登山道に入れるポイントが多く、山好きには稀有な場所である。地元の住民によって健康目的で毎日登山が続けられているほか、多くの登山客や観光客に愛されている。

 六甲山は自然、歴史、保養、スポーツ、レジャーなどの多様な面に魅力を持っているが、各場所に命名されたネーミングにも惹きつけられる。居留地の英国人貿易商アーサー・H・グルームによってレクリエーションの場として開発された六甲山にはトエンティクロス、カスケードバレー、シュラインロード、アイスロード、シェール槍、アゴニー坂などの横文字のネーミングが多い。また石切道、筆屋道、魚屋道、炭屋道などの昔の産業と結びついた道の名も多い。そのほかにも弘法大師に由来する大師道、再度山、修法ヶ原や、幕末期に神戸開港に合わせて参勤交代の大名行列が外国人と遭遇しないように大急ぎで建設された徳川道など、神戸の歴史と深い関わりを持つ地名も数多く残されている。あるいは有毒ガスへの警戒を呼び掛ける地獄谷の名称を持つ谷が複数存在するほか、一軒茶屋、極楽茶屋跡、善助茶屋跡などの生活感のあるレトロな名前も多く残されており、身近な山でありながら興味は尽きない。

 グルームによって開発される以前の六甲山は、薪を採取したり、炭焼きを行う生活と生業の山でもあった。そのため六甲山は江戸時代から木材の伐採が進み、明治当初の写真では山は荒れており、ほぼ禿山状態であった。現在は青々とした緑に覆われた自然豊かな山容を見るばかりであるが、六甲山の緑が人手による植林の結果と知らされると驚かされる。

 六甲山は山全体が崩れやすい花崗岩でできていることから、大雨が続くと土石流が発生しやすい。現在の六甲山麓も、山から流れ出た土砂や石が溜まって形成された扇状地である。神戸市は明治後半から昭和初期にかけて、都市化が急激に進行したために川幅が狭められたり、川の付け替え工事によって川の場所が変更されたり、地下水路も作られた。そのため予想を超えた水害に弱く、大きな被害を度々出している。谷崎潤一郎の『細雪』にも登場する1938(昭和13)年7月の阪神大水害では、約700人の死亡者・行方不明者を出している。これを契機に国土交通省六甲砂防事務所が設けられ、砂防ダムの建設が進められた。現在では約1,000基の砂防ダムが完成している。登山道から少し外れた山道に入ると、木々が繁茂した小さな沢に砂防堤防を見つけることも多く、治山治水の長い歴史に気づかされる。

 六甲山は大都市である大阪や神戸に近い上、山上へはドライブウェイが通じており車やバスを利用するほか、ロープウェイやケーブルカーでも容易に簡単にアクセスできる関係から、春や秋の観光シーズンや毎週末は登山客や観光客で大変な賑わいとなっている。最近はインバンドの影響を受けて、SNSで情報を入手した外国人観光客の姿を見ることも多い。神戸市でも、六甲山を訪れる外国人観光客の便宜を図ろうと三宮・新神戸とケーブルカー「まやビューライン」・「六甲ケーブル」をつなぐ急行バスを7月1日から11月30日の5か月間、社会実験として210円で走らせている。 

 六甲山は観光の山であるとともに登山の山でもある。六甲山の登山ルートとして代表的なものは、西端の須磨浦公園から東端のJR宝塚駅までを一日で歩いて縦走する全山縦走である。市の主催で年2回、民間の登山会主催で1回、年に3回開催されている。縦走路の特徴は、西はアップダウンがきつく起伏に富んでおり、東はダラダラと長いといわれる。縦走者を受け入れる山のキャパシティは最大2,000人とされ、個人や仲間で別の日にチャレンジする人も多い。縦走路ばかりが有名になっているが、尾根沿いや谷筋から六甲山にのぼるルートも多い。

 六甲山に中心となる「へそ」ともいうべき玄関口を見つけることは難しいが、記念碑台に立つ「県立六甲山自然保護センター」(神戸市灘区六甲山町北六甲)が「六甲山ビジターセンター」にリニューアル・オープンしている。ただ六甲山は横に長く様々な登山道があって、一箇所にビジターセンターを設けることは難しいかもしれない。神戸市立森林植物園の展示内容もビジターセンターにふさわしい内容を持っている。

 国際的な経済情勢、物流事情の変化を受けて、国際港湾都市として発展してきた神戸市も成熟化し、地域を牽引する新たな都市ビジョンが求められている。これまで六甲山は、都市化の過程で山の一部が削られて、海面埋め立て用の土砂として使用されたり、ニュータウンとして都市発展のための機能的な役割を担ってきたが、豊かな自然環境の中で住み・働き・憩うことによって日々の生活を謳歌する、そんな新しい時代の都市ビジョンを実現させるための貴重な資源として、六甲山の持つ潜在的な価値に再び光が当てられようとしている。


横尾団地

布引の滝(雄滝)

裏六甲


※肩書等は掲載当時のものです。
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【第22回】
地域活性学会理事・学会誌編集委員 林 靖人
(信州大学 准教授)
 

【第22回】リレーエッセイ
「地域ブランド構築のトレンドと課題」
地域活性学会理事・学会誌編集委員 林 靖人
(信州大学 准教授)

平成18年4月1日に「地域団体商標制度(通称:地域ブランド商標)」が スタートし、10年が経過した。平成28年3月末時点での出願件数は1,130件、 登録件数は592件となり、地域ブランドに関する取組は年々拡大し続けて いる。また、平成27年度から新たに農林水産省の認定による「地理的表示 (Geographical Indications:GI)」制度や文化庁による「日本遺産 (Japan Heritage)」認定制度も始まっている。ローカル・ブランドの価 値を「認証」し、地域資産を全国・グローバルに展開することで新たな地 域活性を狙うトレンドが確立されつつある。

この背景には、ブランドの概念が時代とともに変化していることが指摘で きる。従来、ブランドは自他の所有を区別する役割(焼印)から生まれた。 この段階ではブランドはあくまでも所有者のものであったが、市場が形成 される中で送り手と受け手が価値を共創する存在となり、発展してきた。 しかし、現在、市場には多くの商品が溢れ、機器やサービスは高度化して いる。受け手となる顧客は価値評価が困難になっており、前述した「社会 的な認証」や専門家のレビュー、ランキング等の「第三者による評価」へ の需要が高まっているのである。

このような中、近年、筆者もユネスコの認定する「エコパーク(注1)」を 活用した地域のブランド価値向上に取り組んでいる。世界自然遺産が手つ かずの自然を守る「保護・保全」を重視するのに対して、エコパークは 持続可能な利活用を通じて生態系を保全する「人と環境の共生」を重視し ている。自然と人の共生は世界的な課題・関心事であり、グリーン・ツー リズムやエコツーリズムなど、我が国でも新しい観光や教育の仕組みの中 でその価値が高まりつつある。また、消費においても近年新たな概念とし て「エシカル・コンシューマリズム(Ethical Consumerism)」が注目され ており、フェア・トレードやカーボン・オフセット商品の購入など健全な 市場形成や地球資源・地球環境への配慮を価値とした消費志向が現実化し てきている。

しかし、認証やランキング等によってブランド価値を高めるためには、そ れぞれの枠組で定められている生産や販売条件、品質管理、多言語化等に 対応することが必要となる。もちろん、認定制度によってブランドの認知 度を向上させ、ブランドの保護や経済的な効果を狙う以上、申請に必要な 体制整備、品質保証は申請者側の責務である。だが、地域ブランドの送り 手は、小さな組織であることも多く、必ずしも認定に必要な内容に対して 専門家がメンバーにいるとも限らない。地域資源の価値を保証する認証や ランキングは、地域資源の維持や活用に新たな活路を開くが、一方で我々 は新たな時代の消費を意識した産学官民の連携や人材育成に取り組んでい くことが必要になるだろう。

注1:「エコパークは国内での愛称であり、正式名称は生物圏保存地域 (Biosphere Reserves:BR)」

林 靖人(はやし やすと) 理事・学会誌編集委員担当
 - 信州大学 学術研究院 総合人間科学系 准教授
 - 産学官・地域総合戦略推進本部 本部長
 - キャリア教育・サポートセンター 副センター長
信州大学大学院 人文科学研究科、総合工学系研究科修了(博士:学術)。
専門は、認知心理学、感性工学。修士課程修了後、2002年に信大発の 社会科学系ベンチャーSCOPの立ち上げに参画し、主任研究員として従事 (現在は理事)。2008年より、信州大学にて産学官連携コーディネートや 地域活性化事業のプロデュース、企業・地域ブランドの実践型研究・教育 活動に取り組む。
※肩書等は掲載当時のものです。
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【第21回】
地域活性学会理事・関西支部長 橋本 行史
(関西大学政策創造学部・ガバナンス研究科教授)
 

【第21回】リレーエッセイ
「まちの再生と建物−茶屋町・鶴野町−」
 地域活性学会理事・関西支部長 橋本 行史
 (関西大学政策創造学部・ガバナンス研究科教授)

新しい風を入れて古いまちを変えていく方法は二つあると言われている。 一つは、建物の新改装を行ってそれを起爆剤にして周囲に効果を及ぼして いく方法であり、もう一つは、まち全体のデザインを決めて建物を造り直 す方法である。レトロなまち並み形成は前者が中心で、行政が関与する再 開発は後者の例であろう。一方建築には、建物自身が時代のニーズに合わ せて自己変革して建物を長持ちさせるという考え方があるそうだ。手前勝 手な例を持ち出して恐縮であるが、今回はまちの再生と建物に関わる話を させていただきたい。

北海道夕張市には古い旧炭鉱住宅が空き家となったまま今も沢山残されて いる。夕張独特の景観を作っていたすり鉢状になった山肌に階段状に並ぶ 木造長屋は既に取り壊されて跡形もないが、平地に建てられた無機質な鉄 筋コンクリート造りの建物は手付かずに残され、まちの再生を難しくして いる。放置されている理由は廃棄コストにあるが、転用しようにも用途が 見つからないことも大きい。

場所は変わるが、大阪市の北梅田地区に関西の主要大学のサテライトキャ ンパスが集結し、新たな知の拠点となりつつある。既にJR大阪駅前の再開 発ビルに社会人院生を対象とした複数の大学院がテナントとして入ってい たが、その後、梅田北ヤードにナレッジキャピタルが完成して新たな大学 施設が入居した。今度は阪急梅田駅東側の茶屋町・鶴野町周辺に大学の施 設が集まり始めた。昨年10月28日の地域活性学会関西支部の研究会会場と なった関西大学梅田キャンパスも、昨年10月1日に旧天六学舎の代替えとし て鶴野町の新ビルに移転してきたばかりだ。

梅田キャンパスが入居したビル敷地には、最近まで「メタボ阪急」という 珍しい名前を持ったビルが建てられてた。「メタボ」とは一般に肥満を指 しているので、はちきれないばかりのボリュームを持ったビルを想像させ るが、実際は小さな中層ビルだった。この建物は、黒川紀章氏らによって 1960年〜70年代に提唱されたメタボリズム(metabolism)の建築思想に基 づいて設計されていた。メタボリズムとは新陳代謝のことで、新陳代謝を 繰り返すことによって建物に永遠の生命を与え、近代建築の限界を超える ことを意味していたと言われる。本エッセイの冒頭に挙げた建築思想のこ とである。

当時のことに詳しい方から、木の幹に沿って枝が生え、枝先に木の実をモ チーフとする部屋をくっつけるという考え方だったと分かりやすく教えて いただいた。残念ながら本家の「中銀カプセルタワービル」と異なり、 「メタボ阪急」の各部屋は建物に融合して取替可能な構造(カプセル交換、 ユニット交換)となっていなかったものの、一風変わった外観をしており、 螺旋階段をのぼった2階に人気のステーキハウス「ビフテキ北野」が入り、 その上は単身者用の賃貸マンションとなっていて、主に事務所として使わ れていたという。

せっかく新陳代謝の思想が吹き込まれた建物であったが、古くなっても、 自己増殖は叶わず、運命も尽きて、新しいビルに建て替えられてしまった という訳である。

建物は壊されてしまったけれど、周辺は再開発が急速に進んで全容を一新 している。MBS毎日放送、梅田芸術劇場・アプローズタワー、NU茶屋町、 NU茶屋町プラス、梅田ロフトなどの文化施設や商業施設が相次いで誕生し たほか、流行の最先端を行く若者向けのショップも多い。また地区内には 専門学校が多く、加えて関西大学梅田キャンパスが完成し、続いて大阪工 業大学が22階建てのビルを造って移転してきた。

長らく戦後の貸家や商業ビルが混在していた茶屋町・鶴野町が、若者の文 化や情報の発信基地として生まれ変わりつつある。まちの再生方法に決ま りはないが、少しばかり誇張した表現が許されるならば、ここでは、建物 が持っていた新陳代謝の思想が地域全体に受け継がれたということもできる。

橋本 行史(はしもと・こうし)
関西大学政策創造学部・ガバナンス研究科教授
地域活性学会理事・関西支部長
※2017年2月掲載。肩書等は掲載当時のものです。


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